市民のコミュニティあっての「本物の金沢」。常に新しいことへ挑戦し続け、金沢の強みを徹底的に磨き上げるのが市長の仕事。 /山野之義・金沢市長
金沢のともだち、記念すべき第一弾は山野市長のお話をお届けします!
山野市長は一般企業での会社勤務を経て、市議4期ののち、平成22年金沢市長選挙に立候補・初当選。10年目になる市長の視点からみた金沢の魅力と将来像をお聞きしました!
山野市長の公式サイトはこちら http://yyamano.jp/
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山野市長のリーダーシップ論
旅音(以下T):はじめに、山野市長がお考えになる「金沢市長の役割」についてお聞かせいただけますか?
山野市長(以下Y):僕のリーダー論があるので、それをお話しますね。それが即ち、僕が思う金沢市長像です。
リーダーシップというのは次の2つに尽きると思っています。
1つめは、方向性を指し示すこと。10年後にこんな金沢にします、50年後、100年後はこんな方向に金沢を持って行きます、というベクトルをビシッと決めること。それがリーダーの第一の役目です。
2つ目は、仲間のモチベーションを高めることです。企業に社員がいないと進まないように、僕も、職員の皆さんと一緒に仕事をしないと何もできません。
そこで、どうやって仲間のモチベーションを高めるようにしているかというと、できるだけ現場に行くようにしています。土曜も日曜も、行事などに僕ができるだけ顔を出すことによって、「市長は俺達の仕事をわかってくれてるんだ」と思ってもらうのです。
現場では、できるだけ声をかけるようにします。「お疲れさま」「どうもありがとう」「寒いなか申し訳ないね」と。僕はサラリーマン経験があるから分かるんですが、現場にトップや上司が来てくれると嬉しいものなんですよ。
そういうことを重ねることによって、仲間のモチベーションを高めて一緒に仕事をするということを常に心がけています。
市職員がモチベーション高く仕事することは、そのまま行政サービスに繋がっていきます。だから、非常に大事なことだと思っています。
山野市長がつくる金沢の方向性
T:いまお話いただいたリーダー論の一つめ「方向性」について、山野市長は具体的にどんな方向性を示していらっしゃいますか?
Y:金沢の個性、金沢の魅力、金沢の強みに徹底的に磨きをかけていくことです。
ただし、後生大事に守っていくだけでは、必ず廃れてきます。時にはリスクを背負いながらも、常に新しいことに挑戦する。ハレーションが起きるかもしれません。けれども、そのハレーションを取り除きながら新しい価値、新しい魅力を生み出していく。生み出した価値を文字通り付加価値として、後輩たちにつなげていくのです。それが街づくりの要諦だと、僕は思っています。
金沢の個性、魅力、強みは何かといったら、やはりよく言われる言葉でいえば、歴史であり、伝統であり、文化であり、コミュニティだと思っています。
金沢のコミュニティ単位 「校下」
T:コミュニティとは、具体的にどういうものを指しますか?
Y:金沢市は、町会組織率が比較的高いほうです。金沢には「校下(こうか)」という言葉があります。
たとえば僕は、長坂台小学校の長坂台校下に属しています。長坂台校下に各町会があり、町会連合会がある。公民館があり、子供会がある。PTA、育友会、婦人会もあるし、老人会もある。
地域の課題は、その地域の中で対応してくれることが多かったし、そこに人材育成がありました。子供が小さいときに小学校のPTAに入る。PTAの活動をやって、いずれ子供が卒業しますね。次は、子供会の活動をやらないか?と声をかけられます。若いお母さんは、一緒に子供会をやりましょうよ、婦人会に入りませんか?とか。もしくは地域の消防団に入りませんか?公民館のいろんな活動をやりましょうよ、とか。そういうかたちでやっているのが金沢です。それが金沢の強み。
金沢方式で地域をつくる
Y:金沢方式という言葉を聞いたことはありますか?ほとんどの自治体の公民館は、行政が土地を用意して、建物を建てる。館長は現役職員、もしくはOB職員というのが一般的です。消防団も、小屋は行政が建てて、行政が消防団の車を定期的に与える。それで訓練をする。
金沢方式というのは、公民館の土地は地元で用意してください、です。建物は市が75%負担して、残り25%は地元負担。消防の車も(数字は違うかもしれないけど)同様の仕組みです。消防のポンプは定期的に買い替えがありますが、地元から世帯ごと、企業にも協力してもらって、公民館や消防団が運営されています。
これが金沢方式なんです。
これ、僕はすごくいいことだと思っています。割合はともかく、1円でも出すことによって「おらの町の公民館」「俺の消防団」になるんですよ。それが公民館や消防に対する思いを持ってもらうきっかけになると思っています。とりあえずお金だけ払っておくか、という方もいらっしゃると思いますが、こういうかたちによって、コミュニティというものが醸成されていきます。
こみんぐるが偉いと思う点は、宿泊する海外の方も巻き込んで行事をしていますよね。それがまさにコミュニティ。そこに住んでいる人だけじゃなくて、旅に来た人、全国転勤のサラリーマンも一緒に何かやる。いずれ離れていくのは分かっているけれども、ここにいる間はこのコミュニティの一員として一緒にやっていこうよ、と。それが金沢のコミュニティ。これは金沢の強みです。絶対に残していかなくちゃいけない。徹底的に磨きをかけていかなくちゃいけないし、守っていかなくちゃいけない。
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金沢の価値を高めた、山出・前市長の英断
Y:歴史や伝統工芸、伝統芸能も同じです。ただし、それを後生大事に守るだけじゃない。
山出・前市長が21世紀美術館をお作りになられました。もちろん議論がありましたよ。伝統文化、伝統工芸の町に現代アートとは何事だ?と。
しかし山出・前市長は「伝統文化に現代アートの視点を入れることによって、刺激を与える。そこから新しい価値が生まれていくんだ」という思いでした。山出さんは英断をされ、間違いなく金沢の価値を高めてくれました。いま21世紀美術館を悪くいう人なんて、誰もいませんよ。
これはすごく分かりやすい例ですが、金沢は常に新しいことに挑戦して、歴史や伝統に新たな価値を付け加えて、後輩たちに繋げてきてくれた。だから、僕もやっていかなくちゃいけないと思っています。
伝統と挑戦のはざまで起こるハレーションに、どう対処するか?
T:挑戦するとハレーションが起きる、とおっしゃいました。山野市長は、そのハレーションにどう対応してこられましたか?
Y:僕の場合は、金沢マラソンでしょうか。金沢にスポーツの文化はありませんでした。ましてや、皆でやるようなものはまったくありませんでした。
僕はマラソンというスポーツを通して街のブランドを高めていきたい、と言っていました。たくさん厳しい声がありましたが、幸いなことに僕は2010年12月に市長になり、2015年春、北陸新幹線開業の年に第1回金沢マラソンをする、と早い段階で言いました。
逆にいえば4年ちょっとあります。それまでも金沢市民マラソンという小ぶりのマラソン大会はあったので、新たにスポンサーを集めたりしながら、徐々に実績をつくっていきました。厳しい声があるときには説明をしながら、2015年に第1回金沢マラソンをやりました。成功という表現を使っても、多分誰も怒らないと思います。今は第5回にいたりました。これがまず1つ目。
2つ目は、東日本大震災の時です。瓦礫の受け入れを国から依頼され、金沢市も手を挙げました。ところが、福島の原発の様子がだいぶ明らかになって、多くの自治体はパタパタと手を下ろしていった。
でも、宮城県と岩手県の瓦礫は受け入れることにしたのです。科学的に安全な瓦礫は受け入れよう、ということで金沢は再度手を挙げました。いろんな自治体が再度手を挙げましたけれども、反対にあったりして上手くいきませんでした。でも、金沢市はきちんと受け入れをしました。これはどうしてか?
説明会には全部、僕が出たんです。
安全と安心は違います。安全は、科学的なデータ。安心は、トップが自信をもって説明をすること。
心意気ではなく、科学的根拠に基づいた説明をトップ自らすることによって、安心感を皆さんにもってほしい。それで何度も説明会に出向きました。6時間や7時間の説明会もありましたが、市長が直接説明することによって、受け入れを実現することができました。
T:金沢マラソンの場合は、慌てずに、時間をかけて、というやり方。大震災の例ですと、トップ自らが動いて丁寧な説明をする、というのが山野市長のやり方なのですね。
T:こみんぐるは、ビジョンに「100年後の金沢をつくる」と掲げています。このビジョンに対して、市長からアドバイス、ご意見をお聞かせいただけますでしょうか?
Y:市長室に東京方面からお客さんがたくさんお越しになります。皆さん「金沢はいまだに新幹線効果が衰えていませんね」と言われます。新幹線効果という言葉を否定はしませんが、僕は、新幹線効果を持続するために何かをしようなんて、まったく思っていません。
金沢に新幹線効果でたくさん来てくれるのは、我々の先輩方が、金沢の個性、魅力、強みを大切にして、常に磨き高めてきたからなんです。新しいことに挑戦して、新しい魅力を付け加えて我々に繋げてくれたから。
だから、僕のやらなくちゃいけないことは、新幹線効果を持続させるためなんていうことじゃなくて、徹底的に金沢の個性、魅力、強みにこだわって、磨きをかけていくことです。新しいことへの挑戦によって、本物の金沢の価値や魅力をより高めて、後輩たちに繋げていくこと。
これがまかり間違って、新幹線効果を持続させるために何かしましょう、なんてやってしまうと、半年で駄目になりますよ。徹底的に日常磨きに力を入れていく、ということに尽きると思っています。僕は、その考え方は、ぶれない。
本物の金沢に磨きをかけていって、本物の金沢の良さを理解してくれる方に来てもらい、満足してもらえる。100年後もそんな街であるべきだと思っています。
T:市長が考える「本物の金沢」というのは、どういったものですか?
Y:僕が金沢で一番好きな場所は、市民芸術村。もとは大和紡績という紡績工場があったんです。煉瓦造りの工場があって、山出・前市長が見に行って「これを残そう」となりました。
ここを芸術文化の拠点にしていこう、練習場にしよう、と。
山出・前市長をすごいと思うのは、あそこは24時間365日動いているんです。市民に運営を委託し、コーディネーターがいて、ミュージック工房なり、ドラマ工房なり、アート工房なりをコーディネートしています。利用者と話し合いをしながら、これは趣旨が違うから駄目だ、とか。これは頑張れ、とか、そうやってコーディネートしながら市民の皆さんが運営しています。24時間365日動いているんです。
全国の自治体をみても、文化施設で365日24時間稼働って、どこにもないですよ。
どうして山出・前市長にはそれができたかといったら、市民を信用しているからです。
現場レベルでは多分いろんなトラブルはあると思うんです。穴をあけてしまったとか、誰も来ないからお金が入らないとか。
でも、市長にまで上がってくるトラブルは1個もないんですよ。
市民が運営する、行政は市民を信用している。市民は行政の信用に、期待に応えている。その象徴が金沢市民芸術村だというふうに僕は思っています。これがまさにコミュニティ。
T:では、最後の質問ですが、100年後の金沢に残っていてほしいものは何でしょうか?
Y:コミュニティです。
さっき金沢方式という言葉を言いました。これを税金の二重取りだと言う人もいます。
時代の流れの中で、地域の皆さんの負担割合を変えることは必要だと思います。これまでも何回か変えていますし。
でも、仮に1円であったとしても、10円であったとしても、お金を払って、汗を流して地域をつくっていくというのが金沢方式の魅力です。それがなくなってしまったら、金沢じゃなくなってしまうと思うんです。金沢が北海道にあるのか、九州にあるのか、東京にあるのか、分からなくなってしまう。これは絶対に残していかなくちゃいけないと思います。このコミュニティというものは、絶対に100年後も守っていかなくちゃいけないと思っています。
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≪編集後記≫
金沢というと、歴史、伝統、工芸、食・・とお決まりのキーワードが出やすいなか、市民生活を基盤に置いた山野市長のお話は、かえって新鮮な響きがありました。
「僕が金沢で一番好きな場所は市民芸術村」というお答えには、そう来たか!と。市民のコミュニティがあってこそ、工芸や伝統文化は引き継がれていく、ということですね。山野市長、大事な視点をありがとうございました!
取材:林俊伍、丸山祥子
記事執筆:丸山祥子
取材日:2019年11月27日