100年後、より金沢化した世界都市「金沢」へ。経済合理性だけじゃない「たたずまい」で、未来の金沢を創る/株式会社VOICE代表取締役・宮川真也さん(後編)
旅音のブランドロゴ、旅猫、ホームページに至るまで、ブランドデザインをしてくれた金沢のブランディング会社、株式会社VOICE。
株式会社VOICE代表取締役の宮川 真也さんへのインタビュー後編をお届けします。
宮川さんが描く、100年後の金沢の姿とは?
(前編はこちら)
金沢に期待する、金沢の将来像
T:(株)こみんぐるは、「100年後も家族で住みたい金沢をつくる」ことがビジョンです。宮川さんが考える金沢の100年後を教えてください。
M:金沢の街がこれからどうなっていけばいいか?良い意味で今のままでいてほしい。
一番危惧しているのは、ミニ東京化。北陸新幹線開通のときに、そういう議論がされました。太平洋側の新幹線が通っている街って、アイデンティティがないですよね。なぜかというと、「東京のミニチュア化」で、開発が進んでいるからです。
金沢は「東京のミニチュア化」になってほしくないです。
この街のアイデンティティを100年後もキープしたまま、世界の中でどう位置していくか、です。どうやって世界都市になるか。
世界都市になる条件というのは、東京のコピペじゃない。世界からわざわざ金沢にくる、そういう空気をどう作るか。そういう意味では、今よりもっと金沢化してほしい、と思います。
必ずしも経済的に小さくなるということではないですよ。
このアイデンティティをもっと世界に開いていけば、人は入ってきます。人が来れば自然と経済はまわっていく。
東京化するというのは、前時代的な発想ですよね。でも、一品料理じゃないと、個性というものは担保できない。これまでの資本主義とは真逆の方向に舵を切った方がいいですよね。
「たたずまい」とは、本質的な自分
VOICEがブランディングする上で一番気をつけているのは「余計な装飾をしない」。表面的に飾り付けるデザインは、メッキが剥がれやすいですよ。
本質的な部分を掴めば自然とデザインは成立するし、それが一番強いんですよね。たたずまいっていうのは、そういうことですね。着飾って「私いいでしょ」、と言うのではなく。
洋服で着飾るより、まず自分を磨けっていう話と同じですよ。自分磨きをきちんとしている人って、その時点で何を着てもたたずまいって現れています。
流行を追いかけるとか、華美に背伸びした洋服を着るというよりも、服も含めて自分のたたずまいであると考えて、自分の本質的な個性といったものが自然と表現されるようなルックスになるのがいいと思います。
(株)こみんぐるの「たたずまい」は、どこから来ているのか
こみんぐるという会社に、こみんぐる以上のデザインを着飾らせるのはナンセンスです。こみんぐるが潜在的に持っているものを顕在化させることが、一番大事なわけですね。
例えば、金沢の『ともだち業』。新しい言葉ですけど、「持っていた」わけですよ、こみんぐるが。僕が作ったわけじゃない。
人工的、作為的、というのはインスタント。そもそも自分たちが持っているものがあるはずで、それに向き合う作業がブランディングだと思います。
で、向き合って自分たちが本来持っていた能力や考え方を、そのまま引き出してあげたら、それが良い「たたずまい」として現れてくるんですよね。
そこに品位はあるか。
品格とか品位。そういう言葉も「たたずまい」とイコールです。流行ってるからこれをやろう、とかこういう風に着飾ろうって、あまり品の良いことではないですよね。
金沢という街もそうでしょう?すごく品がある街だと思うし、その品というものが、東京化していくなかで無くなっていくことを、とても心配しています。
人としても、街としても、会社としても、品位って大切ですよね。
金沢のプライドが、金沢のクオリティを作る
街のクオリティ、都市のクオリティって、そこに住む人の民度ですよね。商売している人は、民度が高くないといけないと思うんですよ。
例えば不動産会社が何でもかんでも開発すればいいかっていうと、そうじゃないですよね?東京で流行っているものを持って来れば、お客さんは喜ぶかもしれないけど、節度っていうものが必要でしょ?
そういうビジネスの尺度を持つ人は、「一時的に儲けりゃいいんだよ」っていう考えがベースにあります。「5年で投資回収、次いってみよう!」みたいな。そういうビジネスに対して、ちょっと気持ち悪いよね、って市民が思えるような街になっていったら、金沢のアイデンティティが効いてるかなあというように思いますね。
例えば、店ひとつやるにしても街の景観になるわけじゃないですか。目立つために、ちょっと派手な店構えにしましょう、となったらそれは「街の景観としてどうなの?」。
経済合理性ばかり考えてる人にしてみたら「え?何言ってんの?」って話だと思うんですよ。全然聞く耳持たないと思います。でも、金沢の人が求めてるのは、そういう民度の低い人ではない。
金沢という街が求めるのは、民度の高い行動
100年後の金沢の住人が2020年の我々に求めることって、新しい商業施設や駐車場、ホテルを街なかに闇雲に作ることですか?と考えます。
市民がもっと節度を持って、節操のないことをしない。そういう気質は求められてもいいんじゃないかって思います。飲食だろうが、不動産業だろうが、宿泊業だろうが、金沢の人が節度を持ちながらこの街で仕事をし、経済をつくる、というような方向というのはあってもいいですよね。
こみんぐるの「ともだち業」は、ともだちが先、利益が後
こみんぐるがすでに持っているものを聞き取って、それを言葉にしたり、絵にしたり、ブランディングをやらせてもらっています。
こみんぐるは、金沢にとって、ものすごく重要な会社になるだろうな、って思います。
金沢のゲートウェイになるわけですよね。外の人たちに対して、金沢という街の魅力を伝える役割を担っていくんです、こみんぐるは。
キャッチフレーズにあるように「暮らすように旅をする」ための一棟貸しの宿。ホテルではなく。
この頑固な姿勢が素晴らしいです(笑)。インスタントにやろうとおもったら、でっかいホテル作って、合理的にお客さん入れたほうが、言葉は悪いですけど儲かりやすい、商売として合理性はある。
こみんぐるは、自分たちの目利きで、ここだったら街に溶け込める、ここだったら住んで欲しいなって思えるところをセレクトする。一軒一軒、宿を作っているわけですよね。
このスタンスは素晴らしいし、こういうポジションで仕事をしているということを、自覚してほしいなと思います。
「金沢のともだち」ってすごくいいじゃないですか。僕はパリが好きでよく訪れるのですが、もしもドイツに友達がいたら、パリも行くけどドイツにも行くと思うんですよね。友だちが1人2人いるだけで、そこに行く頻度って大きく変わると思う。
彼がいるから、彼に会いに行こう、とも思うし、彼がいるから安心していけるというのもあるし、足を運ぶ理由として「友だちがいる」ってめちゃくちゃ大きい。
金沢が世界都市になって、全国や世界各地から足を運びたくなる街になる、その要因として、旅音の皆さんが友だちとしていてくれたら、そりゃみんな来やすいですよ。
だから、企業として営利を追求するというのは当然ながら、ビジョンとして「一人でも多くの友だちをつくる」にフォーカスしてもいいと思いますね。
友だちを沢山作れば、こみんぐるとしての経済も回っていく。利益が先、じゃなくて友だちが先。友だちとの絆を作ることが先。
結果的にそれが自分たちの利益になるって、信じ切っていいんじゃないかなって思います。そんなことをできるコンセプトを持った会社ってあまり存在しない。そんな風にスパっと、理にかなったコンセプトを持てる企業って、実は多くないんですよ。
友だちを作るっていうことに徹していたら自分たちも儲かる、っていうモデルが成立する会社ってあんまりないですよね。
こみんぐるは「理屈な」会社だと思います。自分たちの存在意義を追求すればするほど、売上も上がっていく。そういうブランディングじゃないかと思います。
渋沢栄一がいうところの「論語と算盤」。友だちを作るのと、売上を作るのは、「論語と算盤」と同じですよね。
100年後の金沢に残っていてほしいもの
一言でいうと「文化」。心配しているのは東京化していくこと。
より、金沢化していかなきゃならないんです。
金沢化とはどういうこと?金沢のアイデンティティというものが、100年先も存在するということだと思います。
そのアイデンティティを形成しているものが何なんだって考えたら、「文化」だと思います。
伝統文化とかそういう切り取り方じゃなくて。文化っていうのは、伝統も新しいものも、本物であれば受け入れていく。そこには、民度の高い市民がいる、民度の高い経済人がいる。こうしたことを全部ひっくるめて文化。そういう文化が残っていてほしいなって思いますね。
≪編集後記≫
前後編でお送りする超ロングインタビュー!
宮川さんのクリエイター魂が金沢で共鳴すると、こんな表現になるんだなあという言葉ばかり、たっぷり2時間、堪能しました。
本質を追求するだけではなく、本質の力を信じ切ることが、結果的に愛され続けるブランドになるのではないか、と思わされた宮川さんのお話でした。
どうもありがとうございます!
取材:林俊伍、丸山祥子
記事執筆:丸山祥子
取材日:2019年11月13日